はじめに:非常勤講師を支える専任のサポートと「授業の前提」
私が初めて着任したヤンキー高校では、非常にありがたいことに「非常勤講師の先生には、極力授業そのものに100%集中してもらいたい」という専任の先生方の温かいサポート体制がありました。
出勤すると、その日の実習で必要なプリントがすべて印刷されて用意されており、それを手にするだけで授業全体の流れが把握できるようになっていました。
また、情報科の授業においては、単に教科書を丸暗記させるのではなく、「生徒が社会に出たときに、コンピュータをツールとして使いこなせるようになること」を最優先とする教育方針がありました。特に、大学進学や専門的な就職を目指すクラスではプログラミング学習に大変注力しており、通常の教科書に加えてプログラミング専用の教材を用意し、1学期にScratch(スクラッチ)でアルゴリズムの基礎を学び、2学期にはJava言語のコード記述へとステップアップするカリキュラムが組まれていました。
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指導法:「説明はあと、実践が先」のつかみ優先アプローチ
Scratchはブロックを組み合わせるビジュアルプログラミングであり、アルゴリズムを論理的かつ直感的に学べる非常に優秀な教材です。現在では小学校でも広く導入されています。
しかし、ヤンキー高校の生徒たちを相手にする際、授業の最初に「アルゴリズムの定義とは……」と堅苦しい座学から始めてしまうと、彼らは一瞬で興味を失い、机に突っ伏してしまいます。
彼らは基本的に「集中力が極めて短く、楽しくないと感じた瞬間に授業を放棄する」という特徴を持っていました。
そこで私は、授業の順序を180度変えることにしました。
「難しい理屈はすべて後回し。まずは面白いアクションから始める!」

1. 理屈抜きの「真似っこゲーム」でつかみをとる
プロジェクターと生徒の手元モニターに私の操作画面を映し、「理由はいいから、とにかく先生と全く同じようにブロックを並べてみて!」と指示します。
例えば、キャラクターを動かすプログラムで、歩数の数値を「10」から「100」や「1000」に書き換えさせます。すると、キャラクターが猛烈なハイスピードで画面内を駆け回り、跳ね返ります。生徒たちはその予想外のコミカルな動きを見て、「うお、すげえ!」「なんだこれ!」と笑い出します。
まずは「なんとなく面白い」と思わせることがスタートラインです。
2. 「どうやるの?」を引き出してから本題へ
一つでも面白い体験ができると、生徒たちから自発的に声が上がります。
生徒:`「先生、次はどうするの? これをもっと速く回転させたいんだけど何したらいい?」`
私:`「お、いい質問だね。じゃあ、このブロックをここに挟んでごらん」`

3. わざと失敗させて「考える力」を刺激する
生徒たちのやる気が乗り切ったところで、私はわざと「順番が間違っているため、キャラクターが妙な動きをする(あるいは動かない)プログラム」を提示します。
「あれ? 動かないぞ」「なんで?」と生徒たちが悩み始めたところで、ようやく論理的思考の解説に入ります。
「実は、プログラムは順番が少しでも違うと思った通りに動かないんだよ。この『正しい順番で指示を組み立てる手順』のことを、専門用語でアルゴリズムって言うんだ。アルゴリズムって、物事の順番がすごく大事なんだよね」
この「説明はあと、実践が先」のスタイルが、ヤンキー高校での実習授業には完璧にはまりました。このように生徒を夢中にさせるプログラミング指導の3つのコツについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
- 内部リンク:[高校「情報Ⅰ」のプログラミング授業はどう教える?苦手意識を克服する3つの指導コツ](https://goodteacher1.com/happy/happy3/)
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対話法:大人不信の生徒を溶かす「目を見て、誠実に向き合う」姿勢
この学校に勤務する前、採用面接の段階から「少し生徒が荒れている」という説明を受けていました。
生徒たちが荒れてしまう背景には、語彙力が乏しく「自分の本当に伝えたい気持ち」を言葉で正しく表現できないもどかしさや、いじめ、家庭内暴力、そして過去の学校の先生たちから「どうせお前はダメだ」と見放されたと感じてきたトラウマによる強烈な大人への不信感(敵意)がありました。
彼らは私に対しても、最初は「どうせ他の大人と同じだろう」という警戒の目を向けていました。
そこで私は、彼らと接する上で以下のルールを自分に課しました。
- 絶対に生徒を放置しない(無視されても声をかけ続ける)
- 話すときは絶対に目をそらさず、まっすぐ目を見て話す
- 媚びることなく、一人の人間として誠実に向き合う
相手に伝わるまで根気強く伝え、投げ出さない姿勢を示し続けました。

過去に自分を見放した大人の存在から、彼らは大人の「根性」を値踏みします。私が何度拒絶されても目を配り続け、真剣に向き合い続けたことで、彼らは徐々にこう認識し始めました。
`「この先生、他のやつらと違って根性あるな。本気で向き合おうとしてるんだ」`
クラスの雰囲気が少しずつ和らぎ、これまで反抗的だった生徒たちが積極的に授業でコミュニケーションをとってくれるようになり、休みがちだった生徒の出席率も劇的に向上していきました。
語彙力の不足による「もどかしさ」をサポートする対話
言葉が足りず、コミュニケーションを諦めて暴力で解決しようとしがちな生徒に対しては、私から言葉の選択肢を提案して意思疎通をサポートしました。
私:「今、こんな風に思ってもどかしくなっているのかな?」
生徒:「いや、ちょっと違う」
私:「じゃあ、こういうことかな?」
このように「言葉探し」を根気強く手伝い、伝える喜びを感じさせました。また、乱暴な言葉やトゲのある言い方で人を傷つけてしまった生徒に対しては、感情的に怒るのではなく、一人の人間として私の感情をまっすぐ伝えるようにしました。
私:`「今のそういう言い方をされると、先生すごくショックだし、悲しいな」`
人を傷つける生徒の多くは、自分自身が深く傷つけられた痛みを抱えています。だからこそ、他人の「痛みの感情」をまっすぐに伝えられると、彼らはハッとして自分の言葉を省みるようになります。
このように、授業中に規律を保ちながらも生徒との人間的信頼を深める「指導と注意の基準」については、こちらの記事でも詳しく書いています。
- 内部リンク:[高校の授業中、生徒にどう注意・指導する?現役教師が実践する「怒る基準」と伝え方](https://goodteacher1.com/lesson/lesson5/)
また、同じA高校で出会った、教師に強烈な敵対心を持っていた陸上部員「ケンジ」の心を溶かした実際の対話エピソードはこちらにまとめています。
- 内部リンク:[敵対心むき出しの生徒が心を開いた瞬間!「見捨てない」姿勢と寄り添う対話の教育論](https://goodteacher1.com/lesson/lesson4/)
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まとめ:生徒の痛みに寄り添い、癒す存在でありたい
ヤンキー高校での経験を通して、私は教員としての最も大切な姿勢を学びました。それは、「生徒の心の痛みに気付き、心配り・目配り・心配りを徹底すること」です。
どれほど荒れているように見える生徒でも、正面から誠実に向き合えば、必ず彼らはそれに応えてくれます。
Scratchを活用した「実践ファースト」の授業づくりと、生徒との向き合い方が、誰かの生徒指導や授業案のヒントになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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